目には見えないのですが、こころは身体と同様に傷つきます。こころが傷つくと、イライラ、不安、眠れないなどの精神的な苦痛がみられるようになります。過去のこころの傷がうつ病、不安障害、摂食障害などのきっかけになることが少なくありません。
特に深刻なのは、地震、暴力、犯罪被害など突然の強烈なショック体験により引き起こされるPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)と呼ばれるものです。
PTSDでは、突然過去の怖い体験を繰り返し思い出します。恐怖に襲われ、不安、緊張、めまい、頭痛、不眠などの症状が続きます。過去の体験を思い出して恐怖に襲われている時は、その体験が過去のこととしてではなく、現実に起きているように錯覚してしまいます。
PTSD以外でも、日常的なパワハラやいじめなどでこころに傷を負うと、過去のいやな体験が今起きていることこように感じられてしまいます。
こころの傷は、その苦痛が大きく、影響が長く続くため、もう一生この傷は癒されないと思い込んでしまいます。
しかし、それは事実ではありません。多くの研究は、PTSDのような深刻な心の傷でも、時間とともに回復していくことを示しています。人のこころは時間とともに癒しに向かう性質があるのです。
忌わしい過去は過去の体験であることをしっかりと認識し安心しましょう。そのためには信頼できる人につらい、悲しい体験を理解してもらい、癒しの第一歩を踏み出しましょう。誰かに理解してもらったという経験は、多くの力を与えるものです。
過去のこころの傷が治らないという考えは、間違った思い込みです。過去のこころの傷は必ず癒されます。そのように自らの回復を信じることが治療の原点になるのです。
院長 高橋道宏