気分が良すぎる日は、実は要注意? ― 双極性障害(躁うつ病)について
2025年8月4日(月)
「ここ数週間ずっと気分が落ち込んでいたのに、急に元気になって眠らなくても平気になった」
「買い物やギャンブルで散財してしまい、あとで後悔することが多い」
「調子が良すぎて、ひたすらしゃべり続けたり、アイデアが止まらなくなる」
もし、このような経験に心当たりがあるなら、それはうつ病ではなく、双極性障害(躁うつ病)のサインかもしれません。
双極性障害とは?
双極性障害は、気分が極端に落ち込む「うつ状態」と、気分が異常に高まる「躁状態(または軽躁状態)」を繰り返す病気です。
この気分の波が、仕事や人間関係、家庭生活に大きな影響を与えることがあります。
2つの状態、それぞれの症状とは
躁状態・軽躁状態
一見すると「元気になった」「調子が良い」と思われがちですが、実際には注意が必要な状態です。次のような特徴が見られます。
- 睡眠不足でも平気:ほとんど眠らずに活動的に過ごせる
- 多弁・思考の加速:しゃべり続ける、考えが次々と浮かんで止まらない
- 自信過剰:根拠のない万能感にとらわれ、非現実的な計画を立てる
- 衝動的な行動:高額な買い物、ギャンブル、性的な逸脱行動などが見られ、後悔を招きやすい
これらはご本人だけでなく、周囲も困惑させてしまうことがあります。
うつ状態
気分が落ち込み、心身のエネルギーが著しく低下する状態です。
- 興味・関心の喪失:以前は楽しめたことに興味が持てなくなる
- 疲れやすさ・倦怠感:体が重く、何をするのもおっくうになる
- 集中力の低下:仕事や家事、勉強に集中できなくなる
- 悲観的な思考:自分を責める、将来に希望が持てない
なぜ「うつ病」と間違われやすいのか
双極性障害では、うつ状態の期間が長く続くことが多いため、はじめは「うつ病」と診断されることがあります。
しかし、両者では治療方法が異なります。
双極性障害の方に対して、うつ病の治療で一般的に使用される抗うつ薬を単独で処方すると、躁状態を誘発したり、気分の波をさらに不安定にしてしまうことがあります。
そのため、正確な診断が非常に重要です。
治療のポイントは「気分の安定」
双極性障害の治療では、気分の波をできるだけなだらかに保つことが何より大切です。主な治療法には次のようなものがあります。
- 薬物療法:気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなど)が治療の中心になります。必要に応じて、抗精神病薬や抗うつ薬を併用することもあります。
- 生活リズムの安定:規則正しい生活を心がけ、睡眠・食事・運動のリズムを整える
- ストレスマネジメント:過労や強いストレスを避けることも再発防止の鍵になります
また、ご本人だけでなく、ご家族や職場の方が「元気すぎる時期」にも注意を払い、医師と情報を共有することで、より適切な治療方針を立てやすくなります。
最後に ― 早めの受診が安定した生活への第一歩
「うつ病だと思っていたのに、急に元気になった」
それは単なる回復ではなく、双極性障害のサインかもしれません。
双極性障害は、適切な診断と治療を受けることで、気分の波をうまくコントロールし、安定した生活を取り戻すことが可能な病気です。
ご自身の気分の変化に悩んでいる方、またはご家族や身近な方に気になる傾向がある場合は、どうぞ早めに専門の医療機関へご相談ください。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏