忘れたいのに思い出してしまう ― PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは
2025年10月6日(月)
事故や災害、暴力、いじめ、虐待など、命の危険を感じるような出来事を経験したあと、「あのときの光景が何度もよみがえる」「ちょっとした音で体が固まる」といった症状に悩まされることがあります。これはPTSD(心的外傷後ストレス障害)という心の病気が原因で起こる状態です。
PTSDとは
PTSDは、強いショックや恐怖体験のあとに、その記憶が心の中で繰り返し再現される状態です。トラウマ(心の傷)を思い出すたびに、当時と同じような強い不安や恐怖がよみがえり、身体的な反応を伴います。
このような状態は「時間がたてば自然に治る」と思われがちですが、心の深い部分に傷が残るため、放っておくと症状が長期化することがあります。
主な症状
- フラッシュバック: 当時の映像や感覚が突然よみがえる。
- 悪夢: 同じ出来事の夢を何度も見る。
- 過覚醒: わずかな物音にも敏感に反応し、常に緊張している。
- 回避行動: 出来事を思い出すような場所や人、話題を避ける。
- 感情の鈍化: 心が麻痺したように、何をしても楽しく感じられず、人と関わるのがつらい。
こうした症状は心の中だけでなく、自律神経の反応としても現れます。動悸、発汗、震え、息苦しさなど、体の症状を伴うのです。
なぜ起こるのか
PTSDは、脳が「強い恐怖やストレスの記憶」を危険信号として記憶してしまうことが原因です。トラウマ記憶が整理されないまま残ると、わずかな刺激で過去の恐怖体験が再現され、再び体が「危険だ」と反応します。
性格や意志の弱さとは関係なく、脳と心の防衛反応として起こるものです。
回復への道のり
- 薬物療法: 抗うつ薬や抗不安薬を用いて、不眠や過覚醒を和らげます。
- 専門医のサポート: 安心できる環境の中で、トラウマ体験を少しずつ整理していきます。
- 生活の安定: 十分な睡眠、規則正しい生活、信頼できる人とのつながりが回復を支えます。
いつまでも過去の出来事と向き合おうとするよりも、安心して日常を送れる環境を整えることが大切です。
おわりに
PTSDは、つらい経験をした人の「心の正常な反応」が長く続いてしまう病気です。決して弱さではなく、誰にでも起こり得ることです。
「時間がたてば忘れられる」と我慢せず、早めに専門家に相談してください。心の傷は見えませんが、適切なサポートがあれば、心の回復は必ず可能です。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏