人前が怖いのは「性格のせい」ではありません:社交不安症を理解し、不安に振り回されない自分になる方法
2025年11月24日(月)
「人前で話そうとすると頭が真っ白になる」「初対面の人と話すときに声が震えてしまう」「会議の順番が近づくだけで動悸がして落ち着かない」。
こんな緊張に長く悩まされているなら、それは「恥ずかしがり屋」や「内向的だから」という性格の問題ではないかもしれません。社交不安症(社交不安障害:SAD)という病気の可能性があります。
社交不安症では、人前で評価されることや失敗することを過度に恐れるため、強い不安が生じ、行動が制限されてしまいます。大勢の前で話すとき、初対面や目上の人との会話、店員さんに声をかけるとき、見られながら何かをするなど、自分が注目される場面では特に緊張が強くなります。不安が強まると、動悸や震え、顔のほてり、赤面、声の詰まり、汗、吐き気など、身体の反応が現れます。その体験が繰り返されるうちに「また同じことが起きたらどうしよう」と感じるようになり、会議や発言の場面、他人との接触を避ける行動が増えていきます。
「緊張してはいけない」「完璧に振る舞わなければならない」という気持ちが、不安をさらに強めてしまいます。緊張すること自体を「良くないこと」と考え、震えていないか、声がおかしくないかと自分のことばかりを気にし始めると、不安がさらに大きくなります。そして「失敗するくらいなら避けたほうがよい」と考えるようになり、人前に出る機会を避けるようになります。このような悪循環の中では不安が常に行動を制限するようになっていくのです。
社交不安症の方は、もともと真面目で責任感が強く、失敗を避けようとする気持ちが強いとされています。他者からの評価を重視し、完璧でありたいという思いから、対人場面での緊張、不安が大きくなるのです。
克服の第一歩は、不安を消そうとすることではありません。不安をなくすことにこだわるほど、「緊張してはいけない」という気持ちが強くなり、症状はかえって悪化します。大切なのは、不安があっても必要な行動をするという経験を積み重ねることです。緊張していても話してみたら意外と大丈夫だった、声が震えても最後まで言い切れた、人前に立っても何も起こらなかった。こうした体験が、「不安があっても行動できる」という自信につながり、とらわれを弱めていきます。
社交不安症は決して性格の弱さではありません。むしろ、真面目さや責任感の強さという長所が背景にあることが多いのです。不安があっても、完璧を求めず、自分のペースで一歩を踏み出す。この積み重ねが、不安に振り回されない日常を取り戻すことができます。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏


