年末年始がしんどいと感じるあなたへ
― 家族と過ごす時間がこころの重荷になる理由
2025年12月22日(月)
今年も残すところ、あとわずかとなりました。
クリスマスが近づき、新年の準備が進むこの時期、診察室では次のような声を耳にします。
「年末年始は、なぜか気が重い」
「家族と過ごすことを考えるだけで、どっと疲れが出てしまう」
世の中の「おめでたい」雰囲気にうまく馴染めず、言葉にしにくい疲労感や、逃げ場のない閉塞感を抱えてはいないでしょうか。
こうした感覚は心が弱いからでも、わがままだからでもないということです。年末年始という特殊な時期が、心身に負荷をかけている結果なのです。
家族という「安心」と同時に「役割」が生じる場
家族は最も身近で、本来は安心できる存在です。しかし精神医学的に見ると、家族関係は自律神経が最も反応しやすい対人関係でもあります。
家族は感情的な結びつきが非常に強く、安心や評価と直結しているため、わずかな言葉や表情でも心身が反応しやすい関係だからです。
家族と過ごす場面では、本人が意識しないうちに心のスイッチが切り替わります。
・きちんとしていなければならない
・心配をかけてはいけない
・いつの間にか「昔の自分の役割」に戻っている
こうしたこころの緊張は、家族との会話であっても、心の奥では気が張った状態を作ることがあります。
はっきりしたストレスがなくても、ただ同じ空間にいるだけで消耗するのは、自律神経が休まる余地がないためです。
「回復のための時間」が奪われるとき
通常の生活では、仕事や外出、一人の時間を通して、私たちは無意識のうちに対人距離を調整しています。
ところが年末年始は、その調整が極めて難しくなります。
・同じ空間で過ごす時間が長くなる
・一人になれる時間が物理的に減る
・行事への参加が多くなりやすい
これは、回復の途上にある心身にとって大きな負荷です。
「何もしていないのに疲れる」という感覚は、環境の変化に適応しようと、心がフル回転で対応しているサインでもあります。
不調は「悪化」ではなく、正直な反応
「家族なのだから我慢すべきだ」
「この程度で弱音を吐くのはおかしい」
そう自分を律しようとするほど、消耗は深くなります。
「気が重い」「しんどい」という感覚は、すでに負荷がかかっている重要なサインです。
この時期に調子を崩すことは、回復が後退したわけではありません。環境の変化に対して、心身が正直に反応しているだけなのです。
無理に元気に振る舞う必要はありません。
まずは「今、自分はそれだけ負荷のかかる状況にいる」と理解しましょう。
「どう過ごすか」より「どう消耗しないか」
年末年始の過ごし方に、こうであらねばならないという考え方は必要ありません。
目指すべきは「無理して人と同じようにすること」ではなく、消耗を最小限に抑えることです。
・滞在時間を短くする
「体調が万全ではないので」と早めに切り上げることは、心身の消耗を考えれば妥当な選択です。
・一人になれる時間を意識的に作る
疲れを感じたら席を立ち、短時間でも自分を回復する時間を作ることが大切です。
・早めに休む
周囲の人の期待より、自分の生活リズムを優先してください。
おわりに
年末年始に「気が重い」と感じるのは、これまで無理を重ねてきた心身が、これ以上の負荷を避けようとしているサインです。
今は、何かを整えようとするよりも、これ以上消耗しないことを最優先にしてください。
理想的な家族像や過ごし方に、自分を当てはめる必要はありません。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏


