突然の動悸と息苦しさ ― パニック障害の正体と向き合い方
2025年11月10日(月)
突然、激しい動悸や息苦しさに襲われ、「このまま倒れてしまうのではないか」「死んでしまうのではないか」と強烈な恐怖を感じたことはありませんか。
驚いて病院を受診しても、「心臓や呼吸器に異常はありません」と告げられ、原因の分からない不安だけが残ってしまう――。
パニック障害では、このような経験が繰り返されます。
1. パニック障害とは:突然起こる「パニック発作」
パニック障害では、特に理由がないにもかかわらず、突然、強い不安や恐怖とともに身体症状(パニック発作)が現れます。
パニック発作では、以下のような症状が数分から10分ほどでピークを迎え、多くは30分以内におさまります。
- 動悸、脈が速くなる、息苦しさ、胸の圧迫感
- めまい、ふらつき、手の震え、異常な発汗(冷汗)
- 吐き気、腹部の不快感
- 「死んでしまうのではないか」という強い恐怖感
この発作の体験が「また発作が起きたらどうしよう」という不安(予期不安)を生み出します。
その結果、発作が起きた場所や、逃げ場がないと感じる状況(電車、人混み、外出など)を避けるようになり、行動範囲が狭まってしまうのです。
2. なぜパニック発作は起こるのか:脳と自律神経の過剰な反応
パニック障害の背景には、「不安」を感知する脳の働きと、自律神経の過敏な反応があります。
危険がない状況でも、脳が必要以上に反応し、「非常事態だ」と判断して心拍数や呼吸数を急激に押し上げてしまうのです。
これにより、身体が実際の危険にさらされた時のような「パニック状態」に陥ります。
これは「気のせい」ではなく、脳内の神経伝達物質(特にセロトニン)のバランスの乱れによって引き起こされています。
発症には、過度なストレスや疲労の蓄積、生活リズムの乱れなどが関係しています。
3. 治療と対処法
パニック発作は、心臓や呼吸器などの身体的な異常ではなく、自律神経の過剰な反応によるものです。
適切な治療を受けることで、発作の再発を防ぎ、不安に振り回されない生活を取り戻すことができます。
① 薬物療法:過敏な脳の働きを落ち着かせる
- 抗うつ薬(SSRIなどのセロトニンを増やす薬): 不安や発作を引き起こしやすい脳の過敏な状態を根本的に落ち着かせ、再発を予防します。効果が現れるまでに数週間〜数ヶ月かかりますが、パニック障害の治療では中心的な薬です。
- 抗不安薬: 即効性があり、発作が起きたときや強い不安を伴う状況(外出前、乗り物に乗るときなど)に頓服薬として使用します。長期使用は依存のリスクを高めるため、医師の指示のもとで適切に使うことが大切です。
② 心理的な向き合い方:不安に振り回されない経験を重ねる
パニック障害の治療目標は、薬に頼りすぎず、不安を抱えながらも日常生活を維持できるようにすることです。
- 予期不安にあえて向き合う: 発作を経験すると、「また起こるのでは」と感じて行動を制限しがちです。しかし、不安を避けようとすればするほど、かえって不安は強くなります。
- 行動を制限しない: 予期不安があっても、日常生活で必要な行動(買い物、通勤など)を少しずつ実行することで、「不安があっても大丈夫だった」という経験が増えていきます。こうした積み重ねが、不安の影響を小さくしていきます。
4. おわりに:不安に振り回されない生活を取り戻す第一歩
パニック障害は、突然の発作と、その後の予期不安という二重の苦痛を伴う病気です。
しかし、これは決して治らない病気ではありません。
適切な診断と治療を受けることで、多くの方が発作の再発を防ぎ、安心して日常生活を送れるようになります。
「不安から逃げる」のではなく、「不安を抱えながらも、必要な一歩を踏み出す」――その積み重ねこそが、
不安に振り回されない生活を取り戻す第一歩となるのです。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏


