逃げ場のない場所が怖いのはなぜ?:広場恐怖の理解と克服への一歩

逃げ場のない場所が怖いのはなぜ?:広場恐怖の理解と克服への一歩

2025年11月17日(月)

「電車、バス、エレベーター、映画館、人混み……」。
こうした「すぐに逃げられない、助けを求められない」と感じる場所で突然強い不安に襲われたり、
パニック発作を恐れてその場所を避けるようになっていませんか。

もしこうした状況を避けるあまり、日常生活に支障が出ている場合、
それは 広場恐怖症(Agoraphobia) かもしれません。

広場恐怖症は、単なる「場所嫌い」ではなく、
不安からの回避行動が積み重なり生活が徐々に制限されていく状態です。

1. 広場恐怖症とは:不安を恐れて状況を避けてしまう状態

「広場恐怖」という言葉は、古代ギリシャのアゴラ(公共広場)で不安を訴えた人の報告に由来します。

広場恐怖症が意味するのは広場そのものではなく、
「発作や強い不安が起きると困る」
という思いから、特定の場所を避けるようになる状態です。

不安のきっかけとなる状況の例

  • 公共交通機関(電車、バス、飛行機)
  • エレベーターやトンネルなどの閉鎖空間
  • 人混み、美容院、歯科医院
  • 一人での外出や遠出

こうした場面で、
「また不安になるのではないか」
という予期不安が生じ、回避行動につながります。
その結果、生活範囲が徐々に狭まってしまうのです。

2. パニック障害との密接な関係:回避のメカニズム

広場恐怖症は、多くの場合、パニック発作を経験した後に始まります。

パニック発作とは、動悸・息苦しさ・めまいなどの身体症状とともに
「死んでしまうのでは」という強い恐怖に襲われる状態です。

発作を経験すると、次の連鎖が起こります。

① 予期不安

「また発作が起きたらどうしよう」という恐れが生じる。

② 回避行動

逃げにくい場所を避けるようになり、不安が強まる。

パニック障害と広場恐怖の違い

  • パニック障害:突然の発作が中心
  • 広場恐怖症:発作への恐れ(とらわれ)と回避が中心

つまり広場恐怖症の本質は、
不安そのものではなく、「不安が起きることへのとらわれ」 なのです。

3. なぜ回避行動は広場恐怖を悪化させるのか:不安の悪循環

回避行動をとると一時的には楽になります。
しかし同時に、

「避けたから大丈夫だった。やはりあの場所は危険だ」

という気持ちが強まり、不安がさらに増幅されます。

こうして、

  • 不安を避ける
  • 一時的に安心する
  • 「あの場所は危険」という思い込みが強くなる
  • 予期不安が増す

という 悪循環 が形成されます。

本来、不安は誰でも経験する自然な反応で、時間とともに必ず和らぎます。
しかし、

「不安が起きたら困る」

と強くとらわれるほど、不安への意識が強まり、
かえって症状にとらわれてしまいます。

この “とらわれ”こそが、苦しさを生み出すのです。

4. 克服への第一歩:不安へのとらわれを減らす

広場恐怖症を改善する鍵は、
「不安をなくすこと」ではなく、「不安があっても行動する」ことです。

不安があっても行動してみると、
「思ったより大丈夫だった」「不安が消えてしまった」という経験が重なり、
不安へのとらわれは自然に弱まっていきます。

つまり、


不安があっても逃げずに行動を続けることこそ、
とらわれから解放されるために必要な姿勢なのです。

5. おわりに

広場恐怖症は、不安そのものよりも、
不安へのとらわれが生活を制限してしまう病気です。

しかし、不安があってもそこから逃げずに一歩ずつ行動することで、
不安に振り回されない生活を取り戻すことができます。

高橋心療クリニック
院長 高橋道宏

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