おはようございます。昨夜の中秋の名月は、明るく美しい月にかすかに雲がかかる風情のある見ごたえでした。秋になりかなり涼しくなりました。診察に来る患者さんから過ごしやすくなったとの声をちらほら聞きます。一方、9月は雨が多く、雨天の日は体調が崩れやすいというお話を聞くことも多かったです。季節の変わり目は心も体も変化をきたしやすく、睡眠を十分とるなど体調管理にはくれぐれも気をつけて下さい。
注意欠如多動性障害(ADHD)は、不注意や多動性・衝動性のため、仕事や学業に支障をきたす病気です。治療の有力な選択肢として薬による治療があります。これまでの国内外の研究結果から、ADHDでは脳内の神経伝達物質であるドパミン、ノルアドレナリンの異常があることがわかっています。薬による治療でドパミン、ノルアドレナリンの働きを正常化すると症状が改善していきます。子供のADHDでは、両親の対応、学校の配慮も症状改善に大きく寄与します。しかし大人のADHDでは、子供のように親が注意する、躾けることはできず、勤務先に特別な配慮を求めることも困難なため薬物療法の有用性が子供に比べてより高いと考えます。
当院の経験では3分の2以上の患者さんは薬で症状が改善していきますが、「どのような基準で薬を飲めば良いのか?」「いつまで薬を飲めば良いのか?」との質問が患者さんから多く寄せられています。ADHDの薬の開発に携わった頃、国内外の専門家の先生方と意見交換する機会が多くありました。その際に、逆に専門家の先生方から「薬をやめるタイミングはどのように考えたら良いか?」と質問を受けたことがあります。そのことが契機となり 国内外の論文、学会などの治療ガイドラインを調査したことがあります。
国内外の多くの学会や専門家は、ADHDの症状が軽症とは言えない状態であるなら薬を飲んだ方が良いと指摘しています。薬をどこまで飲むかは、ケースバイケースで考えて良いとされています。このような専門家の間で共有されている治療原則を理解した上で自分なりの解釈を申し上げると、家庭、学校、職場などで症状が受け入れ困難であるなら服薬することが望ましい。成長して症状が軽くなったり、例えば転職して症状が受け入れ可能な職場に移った場合などは服薬を中止することができると考えています。
ADHDはそもそも重大な精神疾患ではなく、患者さんは人口の3%程度は存在するとされるありふれた疾患です。重症と言える患者さんは非常に少なく、子供の場合は成長の過程で症状が改善することが大いに期待できますから、ADHDという病名にマイナスのイメージを持つ必要はありません。主治医と共に症状に向かい合い、必要に応じて薬を服用する、生活指導を受けるなどの適切な対応をとることで多くの困難は克服できるのです。
院長 高橋 道宏