うつ病になると物忘れが多くなり、アルツハイマー型認知症ではないか?とか服用している薬のせいではないか?と心配することがあります。最近では、若年性認知症という病気が一般にも知られるようになり、若年のうつ病の患者さんが認知症ではないかと心配するようになりました。
うつ病では、集中困難という症状が見られるため、脳の働きが悪く記憶力が低下します。またうつ病の発症因子として職場や家庭などにおけるストレスがありますが、ストレスは記憶の中枢である脳の海馬(かいば)という場所に対して悪影響を与えるため、うつでは物忘れが多くなるとも考えられます。
うつ病の物忘れは、多少記憶力が悪くなったという程度であることがほとんどです。たとえば前日誰かと食事に行ったが、誰と行ったか、何人で行ったか正確には思い出せないというものです。これに対して認知症の物忘れでは、食事に行ったという体験自体をすっかり忘れてしまいます。また認知症では今日が何月何日か?といった時間の認識も障害されます。このようにうつ病気の記憶障害は認知症に比べて限定されたものです。また認知症では脳全体の萎縮や海馬の萎縮が脳MRIではっきりすることが多いですが、うつ病では海馬が萎縮することはありません。
このようにうつ病では物忘れや勘違いが多くなることがありますが、一時的なもので、進行することはえりません。うつ病の記憶障害は、うつ病が治る頃には治ってしまいます。うつ病では脳の情報処理能力そのものが低下していますから、頭を使うのは程々に必要最小限にして、休息を取りながらうつの回復を待ちましょう。
院長 高橋道宏