2016年11月20日(月)
注意欠如多動性障害(ADHD)の治療をしていると、治療当初は「集中力が出てきた」「不注意によるミスが減った」などうれしい報告をして下さる方がいる一方、「薬が効くどんなふうになるのか?」とか「薬が効いているのか良くわからない」という声もしばしば耳にします。症状がある程度顕著にみられる方は治療により改善した点が実感しやすいのですが、不注意症状が中心で多動性・衝動性があまりない方は、治療により何をどうしようといているのかわからなくなってしまうことがあります。
ADHDの症状はなくなってしまえば、ある意味で他の人と変わらない、当たり前の普通の状態に戻るだけです。職場で不注意によるミスが減ったところで他の同僚と同じレベルになるだけで、特に上司から誉められるわけでもありません。ある意味、当たり前の状態に戻るだけなのです。当初なぜ受診したのか、その理由を忘れてしまうと、だんだん何を治療してどうなろうとしているのかわからなくなり、治療目標が不明確になってしまうのかも知れません。
心の病気の治療では、ADHD以外の病気でも当てはまりますが、まず症状のために実際の生活で困っていることをまずハッキリ意識すること、治療の目標を明確にし、目標通りに治療が進んでいるのか?もしそうでなければ自分はどんなことに注意し、どんな風に生活していったら良いのかをハッキリ理解することがとても重要です。特にADHDの治療では、先にお示ししたように治療目標が曖昧になることがありますので注意が必要です。
自助努力という意味では、子供の場合はまず両親による教育、療育が必要です。大人の場合では、主治医と話し合いながら治療目的をハッキリさせ、できる範囲で自己努力をしていただくことが大切です。ADHDであれば、自己努力をしても自己努力の及ばない部分、限界が見えてきますので、その部分は薬などに治療効果を期待しても良いと思います。ただ漫然と薬を飲んでいても自動的に良くなる病気ではなく、薬を飲みながらの自己努力も治療に大きな影響をもたらします。
院長 高橋道宏