月経前不快気分障害(PMDD)——生理前になると不安やイライラが強くなる理由
2026年8月31日(月)
診察室で、このようなお話を伺うことがあります。
「生理前になると、急に不安が強くなります」
「普段なら気にならないことでイライラして、家族にきつく当たってしまいます」
「生理が始まると少し楽になるのですが、その前の1週間がとてもつらいです」
生理前に気分や体調が変化することは珍しくありません。しかし、不安やイライラ、気分の落ち込みが強く、仕事や家事、人間関係にまで影響している場合には、月経前不快気分障害(PMDD)が背景にあることがあります。
PMSとPMDD
PMS(月経前症候群)は、生理前に心や体の不調が現れる状態です。月経のある女性の約20〜30%にみられるとされています。
その中でも、イライラ、不安、気分の落ち込みなどの精神症状が特に強く、仕事や家庭生活に支障が出るものをPMDDといいます。
PMDDは、月経のある女性全体の数%程度にみられます。割合からみると、PMSのある方のうち、およそ1〜2割にPMDDがみられることになります。
PMDDの数%という割合は、うつ病や全般性不安症の1年間の有病率と同じくらいの数字です。精神科でよくみられる病気と比べても、決して極端に少ないものではありません。
PMDDでは、
・強いイライラ
・不安や緊張
・急に悲しくなる、涙が止まらない
・気分の落ち込みや絶望感
・強い疲労感や睡眠の乱れ
・集中しにくい、人と関わることがつらくなる
などの症状が現れます。
単に「生理前に少しイライラする」というだけではPMDDとはいいません。こうした症状が生理前に繰り返し現れ、仕事に行けない、家事ができない、家族や職場の人との関係が悪くなるなど、生活に明らかな支障が出ることが特徴です。
そして、生理が始まると症状が軽くなっていきます。
なぜ生理前に気分が変わるのでしょうか
PMDDは、単純に女性ホルモンが多い、少ないという病気ではありません。生理周期に伴うホルモンの変化に、脳が敏感に反応することが関係していると考えられています。
その影響で、気分や不安に関係するセロトニンなどの働きにも変化が起こり、感情のブレーキが利きにくくなることがあります。普段なら気にならないことにも強く反応しやすくなるのは、このためです。
「またイライラしてしまった」「どうしてこんなことで落ち込むのだろう」と自分を責める方もいます。しかし、これは性格や意志の弱さで起こるものではありません。
治療で大切なこと
まず大切なのは、症状と生理周期の関係を確認することです。いつ不安やイライラが強くなるのか、生理が始まるとどう変化するのかを記録すると、自分の症状のパターンが見えてきます。
治療では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が有効です。SSRIは脳内のセロトニンの働きを整え、不安やイライラ、気分の落ち込みを和らげる助けになります。
さらに、月経前障害のある方では、将来うつ病や不安症になりやすい傾向があることもわかっています。大規模な研究では、うつ病は約2.7倍、不安症は約2.4倍多くみられました。
「生理前だから仕方がない」と我慢せず、症状が強い場合には早めに治療につなげることが大切です。
おわりに
生理前になると強い不安やイライラ、気分の落ち込みが繰り返されるのであれば、「自分の性格の問題」と考える必要はありません。
毎月同じ時期につらくなることには、理由があります。
一人で我慢せず、医療機関に相談することを検討してみてください。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏


