大人のADHD——仕事の段取りやタスク管理がうまくいかない理由
2026年8月17日(月)
診察室で、このようなお話を伺うことがあります。
「仕事がいくつも重なると、何から手をつければいいのか分からなくなります」
「締切があることは分かっているのに、いつも直前になって慌ててしまいます」
「気をつけているつもりなのに、書類のミスや忘れ物が減らないんです」
一生懸命取り組んでいるのに、なぜか段取りがうまくいかない。周囲から「もっと計画的にやればいい」と言われ、自分でも努力が足りないのではないかと思っている方もいます。
しかし、これは性格ややる気だけの問題ではありません。
わかっているのに、うまくできない。それには理由があります
仕事の段取りを立てたり、スケジュールを管理したりするには、前頭葉を中心とした「実行機能」と呼ばれる脳の働きが関与しています。実行機能とは、物事を計画し、優先順位を決め、注意をコントロールするための司令塔のような役割です。
ADHD(注意欠如・多動症)では、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きも関係し、この実行機能に偏りが生じやすいと考えられています。
特に影響を受けやすいのが「ワーキングメモリ(一時的に記憶を保持し、処理する脳の作業スペース)」です。作業スペースがすぐにいっぱいになりやすいため、
・新しい指示が入ると、直前までやっていた作業を忘れてしまう
・複数のタスクを抱えると、頭の中が整理できずにフリーズしてしまう
・興味のあることには集中できる一方、地道な事務処理では不注意になりやすい
といったことが起こります。真面目に取り組もうとしていても、脳の特性によって情報処理の負荷が過剰にかかってしまうのです。
大人のADHDでは社会人になってから困りごとが目立ちます
ADHDの特性そのものは子どもの頃からありますが、学生時代には何とか対応できていた方でも、社会人になると仕事が複雑になり、困りごとが目立つようになることがあります。
マルチタスクや自己管理が強く求められる環境になることで、それまで個人の工夫や頑張りでカバーできていた限界を超えてしまうためです。
失敗を繰り返すうちに自信を失い、強い不安やうつ状態、不眠といった二次的なこころの不調(二次障害)へとつながってしまうこともあります。
自分を責めず、特性に合った工夫を
大切なのは、根性論に頼るのではなく、特性を理解した上で仕組みを整えることです。
・タスクをすべて紙やメモに書き出して見える化する
・アラームやリマインダーを活用し、時間感覚を外部のツールで補う
・大きな仕事を小さなステップに分解し、一つずつ着手する
また、必要に応じてドーパミンやノルアドレナリンの働きを整える薬を使うことで、注意を保ちやすくなり、仕事の負担が軽減されることがあります。
おわりに
「どうして自分は他の人のように段取りよく進められないのだろう」
そう思いながら、長い間自分を責め続けている方は少なくありません。
仕事の段取りや時間管理の難しさが繰り返され、生活に支障が出ているなら、大人のADHDが背景にあるかもしれません。
一人で抱え込まず、医療を受けることを検討してみてください。自分の特性を理解し、自分に合った働き方を少しずつ見つけていくことが、回復への大切な一歩になります。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏


