飲酒欲求をコントロールするためには?

「健康に良くない」「翌日の仕事に差し支える」とわかっていてもアルコールを飲み過ぎてしまうことはありませんか?飲酒量を適切にコントロールできない状態はアルコール依存とも言えます。アルコール依存性というと家庭内暴力、家庭崩壊、借金など極端な例を思い浮かべる方も多いと思いますが、このような社会的問題を引き起こす方はアルコール依存症の中の一部であり、精神科の病院で入院治療が必要かもしれません。私のクリニックの患者さんは、深刻な社会問題は引き起こしていないものの、「肝機能が悪いのにアルコールを減らすことができない」「飲み過ぎて経済的に苦しくなるのになかなかアルコールを減らせない」などアルコールを適切にコントロールできず悩んでいる方々です。実はこのような方々はとても多いのです。専門的には「1日平均60gを超える飲酒(ビール中ビン3本、日本酒3合弱、25度焼酎300ml)」は多量飲酒とされており、このような飲酒が長期間続くとアルコール依存症になってしまいます。

アルコール依存性の原因の一つにストレスがあります。仕事のストレス、育児のストレス、人間関係のストレスなどがアルコールの摂取量を増やすことはこれまでの研究から明らかです。また、アルコールという物質自体の持つ依存性があります。タバコのニコチンと同じです。飲酒行為は快楽を伴います。私達の脳は快楽刺激が加わると更に快楽を求めるようになる特性があります。また、快楽刺激に慣れが生じると、最初の快楽刺激ではもの足りなくなってしまいます。長年の飲酒の結果、アルコールの量が増えていくのはこのような背景があります。精神科の薬を服用していて依存が心配という言葉を良く耳にしますが、お酒やタバコに比べれば精神科の薬の依存性はないと言って良いものばかりです。精神科の薬はあくまで治療上の必要から服用するものであり、病気のため失調した脳の神経伝達物質(セロトニン、ドパミンなど)を調整しているだけで飲んでも快楽を伴うものではないからです。これは具合が良くなると薬を飲み忘れる患者さんがいることからも明らかです。もし精神科の薬に依存性があるのなら、薬の飲み忘れはほとんど起きないでしょう。

これまでの我が国の精神科治療では、アルコール依存を治すにはアルコールを断つ(断酒)しかないと考えられていましたし、現在もそのような考え方が主流です。アルコール依存性の本質はアルコールのコントロール障害にあり、長年断酒していても再飲酒すればすぐにコントロールできなくなる(再発準備性)。アルコールを調整して適量を飲む(節酒)は治療上不可能で、アルコール依存性の患者さんは生涯断酒を続けなければならないとされています。しかしながら、調査結果をみると、日本では断酒率は治療後2~3年で28~32%、5年前後で22~23%、8~10年で19~30%と報告されています。この結果から断酒はハードルの高い治療法であることがわかります。最近の国際的な治療の流れでは依存が軽度の場合は節酒が可能と考えられるようになっています。その背景として、飲酒欲求そのものを減らす薬剤が開発されたことがあります。このような薬剤は、脳内のグルタミン酸作動神経やオピオイド系と呼ばれる場所に作用し、飲酒欲求そのものを減らします。このような薬は今後日本でも使用されていき、節酒が有力な治療オプションとなる可能性が高いと思います。

アルコール依存性を治すためには、まず自分の飲酒量をきちんと把握することが大切です。自分の飲酒量を記録してみると、想像以上の飲酒に気がつくことがあります。自分は「こんなに飲酒していたんだ。これではいけないな」と自ら気づくことが治療への第一歩です。人から批判がましく指摘されるより、自ら気づく方が治療意欲が湧くというものです。また、アルコール依存の背景にあるストレスをコントロールすることも大切です。そして飲酒欲求そのものを減らす治療薬の使用は有用です。適切に飲酒量をコントロールすれば、過度にストイックになることなく飲酒を普通に楽しむことができる方は多くおられると思います。

院長 高橋道宏

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