アルコール依存症の治療について、診察室では「お酒をやめた方がいいのは分かっています。でも、一生飲めないと思うと治療を始める気になれません」「休肝日を作れるようになりましたが、これでは治療にならないのでしょうか」といったご相談をよく伺います。アルコール依存症というと「一滴も飲んではいけない」「絶対に断酒しなければならない」と考えられがちですが、すべての患者さんが最初から完全な断酒を受け入れられるわけではありません。
アルコール依存症は「意志の弱さ」ではなく「脳の病気」です
まず知っておいていただきたいのは、お酒をやめられない、あるいは適量で止められないのは、意志が弱いからでも性格の問題でもないということです。
アルコールを長期間にわたり過剰に摂取していると、脳の報酬系などに変化が起こり、飲酒への欲求が強くなり、飲酒をコントロールすることが難しくなっていきます。
アルコール依存症は「自分の意志で飲酒をコントロールすることが難しくなる病気」なのです。
精神論で無理やり我慢しようとしても、一人で抱え込んで我慢し続けることには限界があります。
まず自分の飲酒量を知ること
「それほど飲んでいない」と思っていても、実際に記録してみると予想以上に飲んでいることがあります。
ビール、日本酒、ワイン、焼酎など、お酒の種類が違っても、大切なのは含まれている純アルコールの量です。
まず、いつ、どのくらい飲んでいるのかを把握することが治療の第一歩になります。飲酒量を記録すると、「仕事で嫌なことがあった日に増える」「家で一人になると飲んでしまう」など、自分の飲酒パターンも見えてきます。
厚生労働省の「アルコールウォッチ」を使うと、飲んだお酒の種類と量から純アルコール量を簡単に確認できます。
アルコール依存症を「減らす」ことから始める減酒治療
以前は、アルコール依存症と診断されれば断酒を目標とする治療が中心でした。
最近では、病状や飲酒量、身体の状態などを考えながら、まず飲酒量を減らすことから治療を始めることもあります。厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」や、日本アルコール・アディクション医学会などの専門学会が作成した診療ガイドラインでも、「飲酒量低減(減酒)」を治療の目標とすることが位置づけられています。
また、飲酒欲求を抑え、飲酒量を減らす「飲酒量低減薬」という治療薬もあります。
「完全にやめられないから治療しても意味がない」と考える必要はありません。
減らせているかどうかを数字で確認する
「最近はかなり減った」という感覚だけでは分かりにくいものです。1日ごと、1週間ごとの純アルコール量を記録してみると、治療効果を数字で確認できます。
少しずつでも飲酒量が減っていることが確認できれば、それは治療を続ける大きなモチベーションになります。
どのようなときに断酒へ切り替えるのでしょうか
もちろん、すべての方が今すぐ減酒だけで良いわけではありません。
「今日は2杯まで」と決めても、飲み始めると止められない。休肝日を作ろうとしても、何度も飲んでしまう。いったん減らせても、しばらくすると以前の飲酒量に戻ってしまう。このような状態が続く場合には、減酒だけでは難しいと考えます。
朝から飲む、隠れて飲むなど、飲酒を自分でコントロールすることが難しくなっている場合も、断酒を検討する大切なサインです。
肝機能障害や膵炎など身体への影響が大きい場合、飲酒による転倒や事故、仕事上のトラブル、家族との問題が繰り返される場合にも、断酒を目標にした方がよいと思います。
減酒を試みた結果うまく続けられなかったとしても、それは治療の失敗ではありません。その経過そのものが、その人にとって飲酒をコントロールできる状態なのか、断酒が必要なのかを判断する材料になります。
自分に合った目標を決める
アルコールの問題は、意志の強さだけで解決するものではありません。
まず自分の飲酒量や飲酒パターンを知り、減酒が可能であれば具体的な目標を決める。そして、減酒を続けることが難しいと分かれば、断酒へ治療目標を切り替える。
自分の状態を見ながら治療の目標を調整していくことが大切です。
お酒の飲み方に不安を感じているときは、一人で抱え込まず、早めに医療を受けることを検討してみてください。
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芦屋市 高橋心療クリニック
院長 高橋道宏
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