2026年10月12日(月)
「病気を治すために、1日何時間くらい眠れば大丈夫ですか?」
「なかなか眠れないので、睡眠薬を増やしてください」
診察室では、睡眠に関するこのようなご相談をよく伺います。中には、2週間分処方した睡眠薬を10日で飲み切ってしまうというように、処方された量を超えて服用してしまう患者さんもおられます。
心身の健康を維持するために、睡眠は欠かせません。特に、うつ病や適応障害、不安障害などメンタルな病気を抱えている方にとって、良質な睡眠は回復への第一歩です。
しかし、眠れない焦りから睡眠薬の量ばかり増やそうとすると、思わぬ落とし穴にはまってしまいます。
メンタルな不調は、睡眠の乱れから始まる
メンタルな病気の多くは、「眠れなくなること」から始まります。気分の落ち込み、不安といった症状がはっきり現れる前に、「寝つけない」「夜中に目が覚める」など睡眠の乱れが初期サインとして現れていることが少なくありません。
夜中に目が覚めたとき、
「もう3時だ」「あと4時間しか眠れない」「明日の仕事に差し支える」
このように考えているうちに、眠ることそのものが大問題になってしまいます。眠ろうと努力するほど緊張が高まり、かえって眠れないという悪循環が起こります。
良い睡眠とは?
良い睡眠かどうかは、時間の長さだけでは判断できません。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、成人に必要な睡眠時間の目安は6〜8時間とされています。一方で、現代の日本では約4割の方が6時間未満と短く、世界的に見ても日本人は睡眠時間が短い傾向にあります。
睡眠時間には個人差があります。大切なのは「睡眠の質」と「目覚めの状態」です。
良い睡眠は、深くぐっすり眠れ、朝自然に目が覚め、起きたときに体が重くないことです。
一晩に何度も夢を見て起きてしまう、朝起きるのがとにかくつらい、寝る時間や起きる時間が日によってバラバラという状態が続いているときは、睡眠の質が落ちているサインです。
眠れなくても、「横になって休んでいればよい」くらいに考える方が、かえって眠りやすくなります。
睡眠薬を増やす前に考えたいこと
眠れない夜が続くと、「もっと薬を増やしてほしい」と思うのは無理もありません。しかし、自己判断で量を増やしてしまうと、体が薬に慣れ、依存につながることもあり、かえって治療が難しくなります。
睡眠薬を増量する前に考えるべきことが2つあります。
一つは生活リズムの見直しです。就寝時間、起床時間が乱れていないか、日中の過ごし方が問題ないかを振り返る必要があります。
もう一つは、メンタルな病気の治療がうまくいっているかです。不眠はうつ病や不安障害の「症状の現れ」であることが多く、病気の根本的な治療が進んでいなければ、睡眠薬だけをいくら増やしても質の良い睡眠にはならないのです。
睡眠薬と生活リズム、両輪で回復を目指す
睡眠薬は、心身を休ませて回復の土台を作るための有効な治療手段です。日本睡眠学会の診療ガイドラインにおいても、睡眠薬は治療の中核として位置づけられる一方で、漫然とした増量を避け、生活習慣の指導や環境調整と組み合わせて進めることの重要性が示されています。
大切なのは、睡眠薬をただ増やし続けるのではなく、就寝と起床のリズムを整え、生活全体を見直していくことです。
規則正しい睡眠のリズムが自律神経、体内時計の安定につながり、薬の効果も発揮されるようになります。
おわりに
良い睡眠への近道は、睡眠薬の量だけを増やすことではありません。薬の力を適切に借りながら、生活全体のリズムを整え、メンタルな病気の治療を主治医とともに丁寧に見直していくことが、確実な回復への道です。
朝がつらい、何度も目が覚めて疲れる、薬の飲み方に不安を感じているときは、早めに医療を受けることを検討してみてください。
あわせて読みたい関連記事
芦屋市 高橋心療クリニック
院長 高橋道宏


