発達障害(ADHD)と不安障害——なぜ不安が強くなってしまうのでしょうか
2026年6月15日(月)
日々の生活の中で、このような生きづらさを感じてはいないでしょうか。
「大切な仕事や約束があるのに、どうしても遅刻や物忘ればかりをしてしまう」
「片付けやタスクの優先順位をつけるのが苦手で、いつも締め切りに追われている」
「些細なことでも『また失敗するのではないか』と、人一倍強い不安や緊張を感じる」
こうした困りごとを抱えているとき、背景に注意欠如・多動症(ADHD)という発達障害の特性が隠れていることがあります。
正式には、診察室を訪れるADHD特性を持つ患者さんのお話を伺っていると、多くの方が「不注意」や「衝動性」だけでなく、パニック障害や社交不安障害のような不安障害の症状を併せ持っておられます。
一見、関係がなさそうに見えるADHDと不安障害ですが、この二つは実は深く結びついています。
重なる失敗体験と「脳の警戒アラート」
ADHDの特性があると、悪気はなくても約束を忘れてしまったり、不注意によるミスを重ねてしまったりすることがあります。
子どもの頃から、
「どうして普通にできないの」
「また忘れたの」
と注意されたり、自分自身を責めたりする経験を繰り返している方も少なくありません。
こうした経験が積み重なると、脳の奥深くにある「扁桃体(へんとうたい)」という不安のセンサーが過敏になっていきます。
脳が「また失敗して傷つくかもしれない」と先回りして、警戒アラートを鳴らしやすくなるのです。
ADHD特性によるミスのしやすさが、結果として脳を常に警戒しやすい状態にさせ、不安障害を引き起こす土台になることがあります。
「また失敗するかもしれない」という不安
さらに、ADHD特性に伴う見通しを立てる苦手さも、不安を強める原因になることがあります。
例えば、
↓
締め切りや約束が近づいてから焦り始める
↓
「また間に合わないかもしれない」
「また失敗するかもしれない」
という不安が強くなる
↓
焦りによって注意力が低下する
↓
ミスが増える
↓
自信を失う
↓
次の場面でも不安が強くなる
このような悪循環です。
この状態になると、もともとのADHD特性そのものよりも、「失敗への恐怖」によって心身が消耗してしまいます。
会社や学校へ行くことが難しくなることも少なくありません。
回復のために大切なこと
治療において大切なのは、まず不安という強い苦痛を和らげることです。
不安や緊張によって脳が疲れ切っている状態では、ADHD特性に対する工夫を実践する余裕を持ちにくいからです。
診察室では、抗不安薬やSSRIなどを用いながら、まずは高ぶった脳のアラートを落ち着かせていきます。
SSRIには、不安や恐怖に関係する扁桃体の過敏さを和らげる働きがあります。
土台となる安心感が回復してきたら、次にADHD特性そのものへの対応を考えていきます。
ADHD治療薬を検討したり、
- 予定を見える化する
- 忘れにくい仕組みを作る
- 環境を整える
といった工夫を一緒に考えていきます。
大切なのは、性格を変えることではありません。
脳の特性を理解し、不安を生み出しにくい環境を整えていくことです。
おわりに
「どうして自分は、こんなに不安になりやすいのだろう」
そう思って、自分を責め続けている方は少なくありません。
しかしそれは、心が弱いからではありません。
これまでの失敗体験の積み重ねの中で、脳が自分を守ろうとして警戒を強めてきた結果なのです。
背景にある特性に気づき、適切な治療と工夫を始めることで、不安の波は少しずつ静まっていきます。
一人で抱え込まず、早めに医療を受けることを検討してみてください。
焦らず一歩ずつ、自分らしいペースを取り戻していきましょう。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏


