PTSD(心的外傷後ストレス障害)——つらい記憶が何度もよみがえる理由
2026年8月3日(月)
事故や災害、事件、暴力や虐待など、生命や身体の安全を脅かされるような体験をしたあとに、このようなつらさに悩まされることがあります。
「終わったはずの出来事が、突然鮮明によみがえって息が苦しくなる」
「その出来事を思い出させる場所やニュースを、避けるようになってしまった」
「いつも気持ちが張り詰めていて、小さな音にも過敏に驚いてしまう」
時間が経てば解決するはずだと思っても、恐怖やつらさがいつまでも消えない。
「自分の心が弱いからだ」「いつまでも引きずっている自分が悪い」と、自分を責めて一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。
しかし、強い恐怖を伴う体験のあとに不安や恐怖が長く続く場合、それは意志の弱さではなく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という病気が背景にあるかもしれません。
脳の警戒が解除されない状態
本来、私たちの脳は危険に直面したとき、命を守るために扁桃体などを働かせ、身を守ろうとします。
通常であれば、危険が去ると「もう安全だ」と学習し、警戒は少しずつ治まっていきます。
しかし、非常に強い衝撃を受けると、危険が去ったあとも、脳が「危機はまだ終わっていない」と判断してしまうことがあります。
その結果、過去の出来事であるはずの記憶が、まるで今起きていることのように突然よみがえります。これがフラッシュバックです。
また、
・つらい出来事を繰り返し夢に見る
・小さな物音にも強く驚く
・いつも周囲を警戒している
・イライラしやすくなる
・深く眠れなくなる
といった症状が現れることもあります。
これは、過去にこだわっているからではありません。脳が今も危険に備え、身を守ろうとしているために起こるのです。
避けることで恐怖が長引くことがあります
つらい記憶がよみがえると、その出来事に関係する場所や人、話題、映像などを避けたくなるのは自然なことです。
その場を避ければ、一時的には不安や恐怖を感じずに済みます。
しかし、避ける範囲が少しずつ広がると、外出できない、人に会えない、ニュースを見られないなど、日常生活に支障が出るようになります。
また、避け続けることで、脳が「今はもう安全だ」と学ぶ機会が少なくなり、症状が続きやすくなることがあります。
ただし、無理に怖い場所へ行ったり、つらい体験を思い出したりすればよいわけではありません。ご本人の状態に合わせて、安全を確かめながら少しずつ進めることが大切です。
回復のために大切なこと
治療では、強い不安や緊張、不眠などを和らげるために、SSRIなどの薬を使うことがあります。
ご本人の状態に合わせて、主治医と相談しながら治療を進めていきます。
つらい体験を無理に話したり、自分一人で記憶に向き合ったりする必要はありません。
まずは安心して過ごせる環境や人間関係を整え、睡眠や生活のリズムを取り戻し、心身の緊張を少しずつ和らげていきます。
アンド、今の生活の中で、「危険は去り、今は安全である」という感覚を少しずつ取り戻していくことが大切です。
過去の記憶を消し去ることが治療の目的ではありません。つらい記憶が残っていても、それに振り回されず、今の生活を送れるようになることが回復につながります。
おわりに
「過去のことにいつまでもとらわれている自分が情けない」
そう思い、過去の傷と一人で戦い続けている方は少なくありません。
しかし、PTSDは心が弱いために起こる病気ではありません。強い衝撃を受けたあとも、脳がご本人を守ろうとして警戒を続けている状態です。
適切な治療によって、症状の改善が期待できます。
一人で抱え込まず、早めに医療機関へ相談することを検討してみてください。
高橋心療クリニック
院長 高橋道宏


